2023年6月7日
森田成也
以下は、今年(2023年)の5月7日に「ウィメンズアクションネットワーク(WAN)」に投稿した原稿である。投稿からちょうど1ヵ月が経ったが、何の連絡もなく、またサイトに掲載されてもいないので、没になったと判断していいだろう。そこで今回、FLJのサイトに掲載していただくことにした。
報道によると、与党自民党は今国会の会期中に、いわゆるLGBT理解増進法案の与党案をほとんど審議時間もとらないまま可決成立を狙っているとのことだ。今から10日程度で、これほど世論を深く二分している(保守派も含め)法案をそんな短期間で可決成立させるなど、言語道断である。
与党案では、「セルフID」の意味に近い「性自認」が、性同一性障害特例法でも用いられている用語である「性同一性」に書き換えられたことで、最悪の事態は避けられたと言えるが、それでも、トランス活動家たちは、いったん法律ができれば、「性同一性」を「性自認」の単なる言いかえにすぎないとみなして、それを活用しようとするだろうから、与党案でも安心できるものではない。可決させるにせよ、廃案を求めるにせよ、いずれにせよ、徹底した国会審議と国民的議論が必要なのは間違いないはずだが、そのような徹底審議の時間も国民的議論の時間もないまま、拙速に法案の可決成立をもくろむことは絶対に許されないと言うべきだろう。(2023年6月7日)
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「性自認」の法令化に反対する共同声明に賛同を
現在、いわゆるLGBT理解増進法案をめぐって大きな議論が巻き起こっています。すでにこのWAMサイトにも、トランス当事者である杉山文野氏の投稿が掲載されています。私は杉山氏の意見を尊重しつつ、それとは異なる意見があることを知っていただきたく、ここに、私たちが発表した共同声明を紹介させていただきます。以下のサイトをご覧ください。
・共同声明の全文→https://www.seijinin-seimei.jp/statement.html
・賛同者の署名ページ→https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdXcYdN6DJGpVprr82I74EJzZ3-XpXUzvmDeszBfk48Tb2bWA/viewform
この共同声明を読んでいただければわかるように、この共同声明はトランスジェンダーの方々へのいかなる否定的意見も表明するものではなく、また「性自認」それ自体の是非についても特定の判断を下すものではありません。この共同声明はトランス当事者も呼びかけ人になっていますし、賛同者にも少なからぬトランス当事者が入っています。この共同声明は、「性自認」についての考えがいかなるものであれ、それを国家の法律に入れることの危険性を訴えるものです。
共同声明にあるように「性自認」には明確な定義がなく、それを唱える人の間でも意見にばらつきがあります。そのような曖昧なものを国家の法律に入れることは、法治国家としてありえないことです。
またその定義がいかなるものであれ、それが主観的なものであるのは間違いなく、それはあくまでも内心の自由として尊重されるべきものであり、国家の法律に書き込むことは他者や社会全体に押しつけになりかねず、近代国家の法秩序と社会秩序を揺るがすことになります。
またすでに、性同一性障害の方に関しては法律が存在しており(性同一性障害特例法)、そういう方の差別の解消を求める法律(障害者差別解消法)もすでに存在しています。LGBの方の差別解消に関する法律はまだありませんが、「T」に関してはすでに存在するのであり、新たに法律を作る必要はないということになります。それでもなお法律を作るとしたら、性同一性障害でも何でもない人の純粋に主観的な「性自認」を国家が保護することになります。これは、客観的な属性にもとづいて成り立っている近代社会の法秩序と両立しません。
単に主観的なものである「性自認」が国家の法律に書き込まれるならば、生物学的ないし身体的に男性であるが「性自認」が女性である男性が女性スペースに入る事態が促進される危険性も懸念されます。理解増進法案にはもちろん、女性スペースの使用に関するルールを変える規定は含まれていません。しかし、「性自認」が国家の法になることで、「性自認」が女性だと称する男性が女性スペースに入ることを促す法的効果を持ちうることは否定できないでしょうし、少なくとも多くの女性がそのことに不安を感じています。このような不安をデマだヘイトだと一方的に決めつけて法律を強引に推し進めることは、不安をいっそう掻き立てることにしかならないでしょう。本当にこの法律を制定する必要があると考えているのならば、まずはこの不安にきちんと耳を傾けて、国民的な議論を慎重に行なうべきでしょう。なぜそうせず、一方的にデマだヘイトだ差別だと決めつけて、声を封じるのでしょうか? そういう態度こそがまさに、この「不安」に現実的な根拠を与えているのです。
以上の観点から、「性自認」をめぐる意見の相違を超えて、少なくともそれを拙速に法令化するべきではないと思う方はぜひこの共同声明に賛同してください。よろしくお願いします。