オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」の呼びかけ人の皆様にお伺いいたします

石上 卯乃

オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」における “最近ではトランスジェンダーの人びとへの差別的言動などにおいても同様によく見られるものです。” という文について、「研究・教育・言論・メディア」の影響を大きく受ける人間の一人として、また、言論の自由を持つ一個人としてお伺いいたします。

この3年ほどの間のトランスジェンダーをめぐる議論について、何が最も困難をもたらしているかと言うと、2019年2月~4月のWAN署名 も2020年9月の日本学術会議の提言 も、いったい何を指して「トランスジェンダーへの差別」と述べているのか不明であることです。

人によって考えている範囲が違うのであれば、差別とされる内容もあいまいにならざるを得ません。
そのため、このたびオープンレターをお出しになられた確信を持っておいでの方々に、「何がトランスジェンダー差別であるのか」お伺いしたいと考えました。(ご回答は、私・石上卯乃のツイートへのご返信にてどうぞよろしくお願い申し上げます。)

問1.以下のうち「トランスジェンダーへの差別的な言動」とは、どれを指しますか。選んでお答えください(複数回答可)。

①就職や進学において、服装・装飾・髪型が生まれた際の性別の従来的な規範とは異なることを理由に退けること
②トランスジェンダーの外見やふるまいを揶揄の対象にすること
③性別で分けられているトイレや入浴施設は身体の性別に従って利用するべき、と発言すること
④娯楽目的ではない競技スポーツは安全性等の観点から生物学的性別に従って分けられるべき、と発言すること
⑤「私は社会的構築物であるジェンダーで性別を分ける思想には同意していない。私にとって性別とは生物学的性別だ」と言うこと
⑥政治の場や役職などで性別にもとづくクォータ制のある場合に、「ここでの女性とは生物学的女性のことをさすべきです」と発言すること
⑦「どうしたら女性専用スペースを安全に使用していけるか、一緒に考えてほしい」と発言すること
⑧「”月経のある人”ではなくて、これまで使ってきた別の言葉があるはずです」と発言すること
⑨「安全と人権を求めて発言する女性たちをTERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)と呼んで糾弾の対象にしてはいけない」と発言すること
⑩「10代半ばの子どもへの思春期抑制剤の投与は、インフォームドコンセントが成立しない」と発言すること
⑪「ある国ではセルフIDでペニスのついた女性が法的に認められ、それらの人が女子刑務所に入れられ、中でレイプ事件を起こすこともあった」と発言すること
⑫「ある国では、MtFトランスジェンダーを性的な対象にしないと言うレズビアンは差別者として糾弾される」と発言すること
⑬その他(自由記述)

問2.「トランスジェンダー」とは、どのような人を指しますか。以下より選んでお答えください(複数回答可)。

①身体違和があるためクリニックでの診断および性別適合手術を終えて、戸籍も生まれた時の性別ではない方に変更した人
②医学的な個別の事情によりホルモン剤等の摂取や性別適合手術は可能ではないが、身体違和があり、生まれた時の性別とは違う性別で生きることを望む人
③手術は受けていないしその計画もないが、性表現(服装・髪型・装飾等)が生まれた時の性別において従来の社会で要求されてきたものと異なるため、自分の性別は既に自分の望む方であると考える人
④手術は受けていないしその計画もないが、生まれた時とは違う性別で生きたいと望む人
⑤手術は受けていないしその計画もないが、生まれた時とは違う性別で生きたいのでホルモン剤等の投与を受けている人人
⑥手術は受けていないしその計画もないが、自分の性自認は生まれた時の性別と異なるため、自分の性別は既に自分の望む方であると考える人
⑦手術は受けていないしその計画もないが、週末には性表現を普段の性別とは違うものにスイッチするため、自分の性別は既にその週末に装う方であると考える人
⑧手術は受けていないしその計画もないのは性別は日ごとによって変わるからであり、自分の性別は定まっておらず性別の境を越えていると考える人
⑨その他(自由記述)

問3.オープンレターの文面に添ってお伺いします。
「日本語圏では以前から、ツイッターを中心にSNSやブログにおいて、性差別に反対する女性の発言を戯画化し揶揄すると同時に、男性のほうこそ被害者であると反発するためのコミュニケーション様式が見られました。たとえば性差別的な表現に対する女性たちからの批判を『お気持ち』と揶揄するのはその典型です。今回明らかになった呉座氏の発言も、大なり小なりそうしたコミュニケーション様式の影響を受けていたと考えられます。そこでは、差別をめぐる問題提起や議論が容易にからかいの対象となるばかりでなく、場合によっては特定の女性個人に対する攻撃までおこなわれる一方で、自分たちこそが被害者であるという認識によってそうした振る舞いが正当化され、そうした問題点を認識することが難しくなります。これにより、差別的な言動へのハードルが極めて低くなってしまうという特徴があるのです。
このような、マジョリティからマイノリティへの攻撃のハードルを下げるコミュニケーション様式は、性差別のみならず、在日コリアンへの差別的言動やそれと関連した日本軍『慰安婦』問題をめぐる歴史修正主義言説、あるいは最近ではトランスジェンダーの人びとへの差別的言動などにおいても同様によく見られるものです。」

「トランスジェンダーの人びとへの差別的言動」で「よく見られる」こととは、具体的にはどのようなことでしょうか。以下より選んでお答えください(複数回答可)。

①女性たちが、「トランスジェンダー(問2参照)」を戯画化して揶揄し、女性の方こそ被害者であると反発するためのコミュニケーション様式をとっている
②女性たちが「トランスジェンダー差別的な表現(問1参照)」をし、トランスジェンダー当事者から批判を受け、それを「お気持ち」と揶揄する
③女性たちが、「トランスジェンダー差別(問1参照)」をめぐる問題提起や議論をからかいの対象にしている
④女性たちが、特定の「トランスジェンダー(問2参照)」個人に対する「攻撃(問1参照)」を行う一方で、自分たちこそが被害者であるという認識によってそうしたふるまいを正当化している
⑤その他の、マジョリティからマイノリティへの攻撃のハードルを下げるコミュニケーション様式(内容を具体的に自由記述)

補足:
問1①~⑫は「これを行えばトランスジェンダー差別として糾弾に遭うもの」から挙げてあります。

問2は、各回答者様の認識なさっている「トランスジェンダー」の範囲をお伺いするためです。

問3はオープンレターの文面に添ったものです。「女性たちが」としているのは、WAN署名でも日本学術会議提言でも、男性からのフィジカルな暴力を問題にするのではなく、すべてのMtFトランスジェンダー(トランス女性)を女性という範囲に含めることはできない、とする女性側からの声こそが問題として取り沙汰されてきたためです。

ところで、問3の①④は女性と被害者性の結びつきを述べる文になっています。
女性たちは、トランス権利活動家の皆様からずっと、「女性が自分たちの被害者性(victimness)や傷つけられやすさ(vulnerability)を武器化(weaponize)している」という言い方をされてきました。つまり、「女性には身体的性別で区切られた女性専用スペースが必要です」という声は、人間としての安全と人権の保障を求める切実な声ではなく、たんにトランス権利活動家の方々の主張を退けるための戦略として扱われてきました。
ですが、女性の生活実感から出てきたこちらのような声を、差別的と切り捨てられるものでしょうか?
https://femalelibjp.org/nf/2020/10/02/「トランス女性は女性です」に対して思うこと-2/
https://femalelibjp.org/nf/2020/10/01/トランスジェンダーとトランスセクシャルの違い/
このような女性たちに理解を示す男性たちの声も、無視してよいものでしょうか?
https://femalelibjp.org/nf/2020/10/01/terfと女性を呼んで批判している男性の皆様へ/

トランス権利活動家の方々は、女性専用スペースの安全性を懸念する声に、「犯罪は犯罪として裁けばいい」、「トランス女性は女性なのだから、ほかのすべての女性と同じ権利がなくてはならない」と主張してきました。正確に言えば、ここまでのことを主張する活動家の方もいれば、「そんなことは言っていない」という言葉で濁して結局何を目指し何を主張しているのかよくわからない方々もいらっしゃいました。だからこそ、オープンレターにお名前を連ねておられる皆様から、はっきりしたお返事を頂戴したいと思っています。
このオープンレターは、現実を問3①④のように解釈することを、つまり、女性たちは現実に即していない自分たちの被害者性を楯にしてMtFトランスジェンダーに対して酷い扱いをしているのだという主張を、後押しするものと言えます。
そうであれば、このオープンレターは、女性差別的な文化から脱すると言いながら、「女性であるがために不当な目にあってはならない」という女性からの抗議の声であっても、ある女性たちの声は聞き、ある女性たちの声は聞かなくてもよい、とするものになります。それは呼びかけ人様たちの本意なのでしょうか? お手数をおかけして申し訳ございませんが、基本的にはただ番号を選んでいただくだけのお伺いです。お返事を下さいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。