阿久津淳一
河上政治「慰安婦と兵隊」より
水銀軟膏を手渡して去るぼくの背に
娘の唄う歌が追いかけてきた。
わたしのこころは べんじょのぞうり
きたないあしで ふんでゆく
おまえもおなじ おりぐらし
いきてかえれる あてもなく
どんなきもちで かようのか
おまえのこころは いたくはないか
私のこのエッセイは、現在、主にツイッターで、トランス女性およびトランスジェンダリズムに批判的なスタンスの女性たちを“TERF”と呼んで、差別をやめろ、黙れ、などと批判の声を上げている左翼・リベラルの男性にむけて書いたものです。あ、俺、当てはまるかも……と思う男性の皆さん、どうか最後までお読みください。
まず、第一に知っておいて欲しい事は、例えネット上の言葉のやり取りであっても、女性は男性に強い言葉で攻撃されると恐怖を感じ、怯んでしまうという事です。そんな事を言っても、現実で対面しているわけではないのだから大丈夫なのじゃないか、と思うかもしれませんが、実際にそう証言している複数の女性を私は知っています。男女の肉体能力は不平等であり、腕力、体力などは、例外はあれど、一般的に男性のほうが上です。つまり、くだいて言うとケンカすれば男性が勝ってしまう。その事を女性たちは経験や知識で知っているのです。ですので、ツイッターをはじめとするSNSにおける言葉使いというものに慎重になってほしいのです。たとえツイッター上でも、例えば、「差別をやめろこの野郎」と男性から言われると女性は怖いのです。相手を怖がらせた時点で、公平な、フェアな対話というのは成り立たなくなるのは分かりますよね。もしあなたが、相手を怖がらせて黙らせる、という卑怯な戦法を取るような卑劣な人間でないのなら、どうか言葉使いを考えてください。
次に、こちらが本題になりますが、いわゆる“TERF”とあなたが呼びたくなるような主張をしている女性たちのBIO(自己紹介文)や直近のツイートやリツイートを読んでみてほしいのです。性暴力に強く反対していませんか。DVに強く反対していませんか。痴漢等の性犯罪を厳しく批判していませんか。それは彼女たちが性暴力、性犯罪、あるいはDVの被害者だからなのですね。彼女たちがトランス女性に批判的なのもこれが理由なのです。男性に不信感があり、男性器に対し、恐怖や脅威を感じてしまう。つまり、言い切ってしまいますが、男性こそがこのトランス女性問題の「諸悪の根源」なのです。女性に性加害する男性がこれまでに一人もいなかったなら、今後一人もいなくなれば、女性たちが男性器のある状態のトランス女性を恐れる理由はないわけです。が、そのような諸悪の根源である、男性である私やあなたが女性に対し「トランス女性を差別するな」という資格自体が本当にあるのでしょうか?一旦、胸に手を当てて自問してみてください。「男性に傷つけられた女性をさらに、男性であるこの俺が攻撃しても良いものだろうか?」と。
男性である私は同じ属性の一員が犯した性犯罪などについて、私自身にも一つの責任があると思っています。それは「二度と同じ犯罪を起こさせないために発言し、あらゆる事をする」です。よく言われるのが「属性一人の犯罪だの過ちだのを属性全体に当てはめるのは間違いだ」という意見ですが、これ自体はその通りです。ある男性が性犯罪を犯したからと言って、男性全員が性犯罪者ではありません。その犯罪についての責任を取る必要もありません。しかし、「男性による性犯罪をなくすためにあらゆる事をしよう」と宣言し、実際に行動するという形で「責任」を果たすべきです。そんな男性が多くいればいるほど、過去に男性に傷つけられ苦しんでいる女性の、男性を憎む気持ちが薄れていくかもしれません。そして、「男性は全員性犯罪者予備軍」というような考え持っていたとしても、捨ててくれるかもしれません。ただ、性犯罪や性暴力などのない世界というものは、いつかは必ず実現すべき未来ではあるものの、一朝一夕に達成する事は出来ません。今、私たち男性が取り組むべきことは、以上のような考えを踏まえて、性犯罪は許されざる卑劣な行為であり、断じてあってはならない、という空気・世論・常識をひたすら作ることではないでしょうか。
それはそれで分かるし、賛同もするが、トランスジェンダー女性への差別もまたあってはならない事だ、と思うかもしれません。それは間違いない事実です。しかし、LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの中でも、Transgenderは一番理解が難しい存在です。おそらく、トランス女性がどういう人たちなのか、何がトランス女性差別に該当し、何が該当しない、というような説明は、他の記事で誰かがしてくれているでしょう。が、知りたいならば、検索サイトなどで調べるか、私、阿久津淳一にツイッター(@pokopokohead061)で質問してください。あなたが納得するまで説明します。少なくとも、女性たちが女性専用スペース(トイレ・風呂・更衣室など)を守りたい、という表明は断じて差別ではない、とだけ言っておきます。
最後に改めて言います。女性達の口を塞がないでください。女性達の声をかき消さないで、耳を傾けてください。女性達を強い言葉で攻撃するのをやめてください。私は女性達の意見に耳を傾けることによって、彼女たちのトランス問題に関する意見が論理的であり、確かな根拠を持ち、正当性があり、差別やアンチなどではない、と判断することが出来ました。だからあなたも、先入観なしに彼女たちの意見を聞いてください。なぜこういう事を言うかと言うと、私がツイッター上での左翼・リベラル男性が女性達を攻撃しているのを見ていると、そこにミソジニー(Misogyny 女性嫌悪、女性蔑視)を感じずにはいられないのです。女のくせに生意気な、女の分際で差別をするとは何事だ、お前の意見など聞かない、というような気持ちを持っていませんか? いや、俺にはミソジニーはない、と思うなら、重ねてお願いします。女性達の意見を聞いてください。あなたがたの一部が「男尊左翼」と呼ばれているのは知っていますか。居丈高に女性を罵倒し、手前勝手な意見を押し付け、高圧的に女性の意見を否定して、ふんぞり返っていれば、そう呼ばれても仕方ありません。「男尊女卑」という前時代的な価値観は、左翼・リベラルであれば、真っ先に全否定し、克服していかねばならないものです。あなたはそのためにこれまで何か発言してきましたか。フェミニズムがジェンダーを解消してゆく事を大きな目標としているのは何故だと思いますか。今一度、ご自分が男性と女性を本当に対等の存在として捉えているか、しっかりと考え直してみてくれませんか。
あなたがた左翼・リベラル男性が“TERF”や「差別主義者」などと、特に性暴力サバイバー女性を攻撃する事は、右翼・保守男性が元慰安婦の女性達を「ただの嘘つき売女」と罵る声にも等しく見えてしまいます。屈辱と絶望を乗り越え今日も明日も生きてゆく女性たちが、女性専用スペース(トイレ、風呂、更衣室など)を安心して利用したいという、ただそれだけの、当たり前の願いをこれからもあなたは踏み続けるのですか。あなたのこころは いたみませんか。